このブログでは「単純林と比較して混交林で森林の生産性が高まる現象」について何度も取り上げてきました。
なぜ一種類の樹木よりも多様な樹種が存在している方が森の生産性が高いのか?
そのメカニズムは森に共存する樹種の「個人プレー」と「チームプレー」に分けられます。
単純林よりも混交林で生産性が高くなるメカニズムの一つは,生産性が高い樹種による「個人プレー」です。
仕事や学校でグループワークをするときに,優秀な一部の人がほとんどの仕事を片づけてしまうことがありますよね。
森林も同じです。
森全体の樹種の集まりを一つのチームととらえたとき,森全体の成長量や生産性を稼いでいるのは成長の優れた一部の樹種である場合があります。
当然ですが,森林の多様性が高いと,成長が早い樹種がその森林に含まれる確率が高くなります。
また,一般的に,植物の一番の競争相手は同じ種,自分たち自身です1。
混交林では異なる種が共存しているので同じ樹種同士の間隔が大きく,成長の良い樹種にとってのライバル,同種の樹木との距離が保たれます。
したがって,成長の優れた樹木は,単純林と比べて,混交林でより伸び伸びと育つでしょう。
このような「個人プレー」のメカニズムを生態学では「選択効果」と呼びます2。
多様な樹種がいる中から生産性の高い樹種が“選択”されて,森全体の生産性を高める効果です。
一方で,単純林よりも混交林で生産性が高くなるもう一つのメカニズムは「チームプレー」です。
そして,「チームプレー」には植物同士の「助け合い」と「すみ分け」,植物以外の生物との「仲介」の3要素があります。
第一に,異なる樹種による「助け合い」について。
例えば,樹木の根は糖やアミノ酸を含んだ液体を放出しています。
この液体の成分は樹種によって異なり3,中には土壌の鉱物を風化させて植物が利用できる養分量を増やす効果を持つものがあります4。
この養分はまわりの共生する他の樹種も利用することができ,その樹種の成長を促進する可能性があります(過去の関連記事「根による樹種間の助け合い」)。
第二に,異なる樹種間による「すみ分け」。
例えば,樹種によって,成長に多くの光を必要とする陽樹,光が少ない環境でも生育できる陰樹があります。
陽樹の樹種だけを植えた場合,成長が早い樹木が他の樹木の影になってしまうと,成長の遅い樹木は光不足で枯れてしまうでしょう。
一方,陰樹は暗い環境にも耐えられるので,陽樹が森林の上層,陽樹が下層というすみわけができます。
結果として,森林全体の空間や光を効率的に利用でき,生産性の向上につながります5,6,7,8。
最後の一つが,植物以外の生物による「仲介」の効果です。
例として,植物の病原菌や害虫を考えてみましょう。
一般的に,同種の植物がまとまって存在していると,その植物の病原菌や害虫もその土地に集まってきます9,10。
一方で,その植物種の病原菌や害虫は,他の種にとっては無害の場合があります。
その場合,異なる樹種が混在すれば,病原菌や害虫がターゲットとなる樹木と接触する確率が下がり,森林全体の病気や害虫の被害を抑えられます11,12,13。
森全体として病害や虫害を軽減されれば,生産性も向上するでしょう。
ちなみに,以上紹介したような「チームプレー」のことを「相補性効果」といいます14。
今回は,混交林が単純林よりも生産性が高まるメカニズムとして,その森を構成する樹種の「個人プレー」,「チームプレー」を紹介しました。
ところで,森の生産性を高めるには「個人プレー」と「チームプレー」のどちらが重要なのでしょうか?
重要性のバランスはその土地の環境や林齢によっても違うのでしょうか?
次回はその辺を深掘りしましょう。
以上,”だい”でした。
参考:
- Adler, P. B. et al. Competition and coexistence in plant communities: intraspecific competition is stronger than interspecific competition. Ecology Letters 21, 1319–1329 (2018).
- Loreau, M. & Hector, A. Partitioning selection and complementarity in biodiversity experiments. Nature 412, 72–76 (2001).
- Zwetsloot, M. J., Kessler, A. & Bauerle, T. L. Phenolic root exudate and tissue compounds vary widely among temperate forest tree species and have contrasting effects on soil microbial respiration. New Phytologist 218, 530–541 (2018).
- Chen, C. R., Condron, L. M. & Xu, Z. H. Impacts of grassland afforestation with coniferous trees on soil phosphorus dynamics and associated microbial processes: A review. Forest Ecology and Management 255, 396–409 (2008).
- Kelty, M. J. Productivity of New England hemlock/hardwood stands as affected by species composition and canopy structure. Forest Ecology and Management 28, 237–257 (1989).
- Morin, X., Fahse, L., Scherer-Lorenzen, M. & Bugmann, H. Tree species richness promotes productivity in temperate forests through strong complementarity between species. Ecology Letters 14, 1211–1219 (2011).
- Williams, L. J., Paquette, A., Cavender-Bares, J., Messier, C. & Reich, P. B. Spatial complementarity in tree crowns explains overyielding in species mixtures. Nature Ecology and Evolution 1, (2017).
- Van de Peer, T., Verheyen, K., Ponette, Q., Setiawan, N. N. & Muys, B. Overyielding in young tree plantations is driven by local complementarity and selection effects related to shade tolerance. Journal of Ecology 106, 1096–1105 (2018).
- Janzen, D. H. Herbivores and the Number of Tree Species in Tropical Forests. The American Naturalist 104, 501–528 (1970).
- Connell, J. On the role of natural enemies in preventing competitive exclusion in some marine animals and in rain forest trees. Dynamics of populations 298, 298–312 (1971).
- Field, E. et al. Associational resistance to both insect and pathogen damage in mixed forests is modulated by tree neighbour identity and drought. Journal of Ecology 108, 1511–1522 (2020).
- Jactel, H. et al. Tree Diversity Drives Forest Stand Resistance to Natural Disturbances. Current Forestry Reports 3, 223–243 (2017).
- Guyot, V., Castagneyrol, B., Vialatte, A., Deconchat, M. & Jactel, H. Tree diversity reduces pest damage in mature forests across Europe. Biology Letters 12, (2016).
- Barry, K. E. et al. The Future of Complementarity: Disentangling Causes from Consequences. Trends in Ecology and Evolution 34, 167–180 (2019).
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