前回は,複数の樹種が共存する混交林で生産性が高まる現象,過剰収量のメカニズムを紹介しました(前回の記事)。
ただ,過剰収量はどの混交林でも起きるわけではなく,森林の特徴や周りの環境条件に依存します。
今回は,その一例として,過剰収量と樹齢の関係を見てみましょう。
よく,「結果は後からついてくる」といいますが,樹木多様性が森林の機能に与える効果にも言えるかもしれません。
例えば,フィンランドの北方林で樹木の成長を混交林と単純林で比較した研究1。
樹木が若いときは単純林の方が成長が良く,逆に,樹齢20年ごろになると混交林の方が樹木の成長が良くなることを示唆しました。
この樹齢20年というのは,この地域で森林の上層が枝葉で完全に覆われる時期(林冠閉鎖)と一致しているようです。
通常,林冠閉鎖が起きると,森林内が暗くなるため,樹木間で光をめぐる競争が激しくなります。
一方で,耐陰性(光が少ない環境でも成長できる能力)や樹形,生物季節(葉を出だすタイミングなどの生き物の季節性)が異なる樹種が共存している混交林では,林内の空間や光を効率的に利用でき,光をめぐる競争が軽減され,結果的に,樹木の成長が促進されると考えられています。
このように樹木多様性が生産性に与える効果が時間とともに高まる現象は,30年以上も前に北海道富良野に設置された樹木多様性実験林でも報告されています2。
この実験林ではウダイカンバ,ミズナラ,トドマツの3樹種に着目し,混交林と単純林での成長と生存率を比べました。
その結果,森林全体でみると単純林よりも混交林の方が生産性が高く,その理由として,ウダイカンバとミズナラの成長と生存率が混交林で向上したことがあげられています。
今回見てきたように,混交林の生産性は必ずしも単純林よりも高くなるわけではなく,林齢が関係しています。
特に,林齢が大きくなるほど,樹種混交が生産性に与える効果も向上していく傾向が報告されています。
果たして,この樹種混交が生産性に与える効果は林齢とともにどこまでも向上し続けるのか?
それとも上限はあるのか?
その問いにはまだ答えが見つかっていなく,今後の研究に期待です。
以上,“だい”でした。
参考:
- Jucker, T. et al. Good things take time—Diversity effects on tree growth shift from negative to positive during stand development in boreal forests. Journal of Ecology 108, 2198–2211 (2020).
- Tatsumi, S. Tree diversity effects on forest productivity increase through time because of spatial partitioning. Forest Ecosystems 7, (2020).