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森林研究の最前線⑥~樹種の機能をはかる~

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以前の記事では,単純林と比較して,多樹種が共存する混交林で森林の生産性が高まる現象を紹介しました(関連記事)。

 

生産性が高い混交林では樹種同士が競争を避け合い,時には,成長を促進し合うことが分かっています。

 

では,共生できる樹種の組合せはどうやって予測できるでしょうか?

 

現実的に考えて,共生することができる樹種の組合せを一つ一つ実験して検証することは,時間や予算的に難しいです。

 

世界全体で約6万種の樹種が確認されていますが1,単純に2種を選ぶ組み合わせは約18億通り。

 

このような莫大な数の実験林を設定して樹木を育てるのは非現実です。

 

そこで,少ない実験結果から,実験では試していない樹種の組合せの良し悪しを予測する必要があります。

 

その予測のために期待されているアプローチが,「種の組合せ」ではなく「機能の組合せ」を考えることです。

 

そして,樹木の機能の評価に欠かせないものが「機能形質」という概念です。

 

 

機能形質で種の機能を測る

 

機能形質とは生物のふるまい(成長,生殖,生存)を左右する生物自身の特徴のことです2

 

樹木で言えば,樹木の見た目や形,落葉のタイミングの違いのような季節性,光合成や呼吸などの生理現象に関する特徴です。

 

例えば,葉の面積は機能形質の一つです。

特に,葉の片面の面積をその重さで割った値を「比葉面積」といいますが,比葉面積はその種の光合成能力と相関があり,比葉面積が高い葉をもつ樹種は成長速度が速いことが分かっています3

 

また,根の代表的な機能形質は,細根(直径2mm以下の根)の長さを重さで割った値である「比根長」です。

比根長が高い根は養分吸収能力が高い一方で,根の寿命が短いというトレードオフがあります4

 

このように機能形質をはかることで樹木のふるまいや機能を評価することができます。

 

種の組合せではなく機能の組合せを考える

種を機能形質によって特徴づけることにより,「樹種の組合せ」ではなく,「機能の組合せ」を考えることができます。

 

そして,「機能の組合せ」を考えることにより,実験では試していない樹種の組合せの正否を予測できる可能性があります。

 

例えば,海外でヨーロッパアカマツとドイツトウヒの混交林の研究が行われたとします。

 

これらの樹種は普通,日本には自然に存在しない樹種なので,「種」の枠組みでとらえてしまうと,この研究結果は日本の混交林にあてはめることができません。

 

一方で,機能形質である比葉面積に着目すると,ヨーロッパアカマツは約60 cm2/g,ドイツトウヒは約50 cm2/gで,差は10 cm2/gです(例として,スウェーデンの同齢単純林のデータを参考にしてます5)。

 

常緑樹では,比葉面積が低いと耐陰性(光が少ない環境でも成長できる性質)が高いといわれており6,単純に比葉面積を耐陰性の指標とするならば,ヨーロッパアカマツとドイツトウヒの耐陰性の差は10です(本当は耐陰性の評価はもっと複雑です7)。

 

そして,この耐陰性に関わる比葉面積は世界中のどんな樹木でもはかることができます。

 

仮に,海外の実験で「比葉面積(≒耐陰性)が異なる樹種が共存する混交林で生産性が向上する」という実験結果が得られたとすれば,日本の樹種でも比葉面積が異なる樹種で構成される混交林で生産性が向上する,と予測できるかもしれません。

 

このように,種を単なる名前ではなく,機能として捉えることで,限られた研究成果に規則性を見出すことができます。

 

 

おわりに

今回は生産性が高い混交林の樹種構成を予測するアプローチとして,「種の組合せ」ではなく「機能の組合せ」を考える視点を紹介しました。

 

そして樹木の機能を評価するには,樹木の成長や生殖,生存を左右する機能形質をはかることが重要です。

 

現在,樹木はもちろん,世界中でさまざまな植物の機能形質が蓄積されてきています8

 

次回は,具体的に,機能形質を扱った混交林の研究を見ていきましょう。

 

以上,”だい”でした。

 

参考:

  1. Beech, E., Rivers, M., Oldfield, S. & Smith, P. P. GlobalTreeSearch: The first complete global database of tree species and country distributions. Journal of Sustainable Forestry 36, 454–489 (2017).
  2. Violle, C. et al. Let the concept of trait be functional! Oikos 116, 882–892 (2007).
  3. Poorter, L. & Bongers, F. Leaf traits are good predictors of plant performance across 53 rain forest species. Ecology 87, 1733–1743 (2006).
  4. Weemstra, M. et al. Towards a multidimensional root trait framework: a tree root review. The New phytologist 211, 1159–1169 (2016).
  5. Goude, M., Nilsson, U. & Holmström, E. Comparing direct and indirect leaf area measurements for Scots pine and Norway spruce plantations in Sweden. European Journal of Forest Research 138, 1033–1047 (2019).
  6. Lusk, C. H. & Warton, D. I. Global meta-analysis shows that relationships of leaf mass per area with species shade tolerance depend on leaf habit and ontogeny. New Phytologist 176, 764–774 (2007).
  7. Poorter, L. Leaf traits show different relationships with shade tolerance in moist versus dry tropical forests. New Phytologist 181, 890–900 (2009).
  8. Kattge, J. et al. TRY – a global database of plant traits. Global Change Biology 17, 2905–2935 (2011).

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プロフィール

だい

「森づくりはもっと自由でいい!!」
これまでの単一種を植栽する人工林ではなく,複数種を植栽する混交林の可能性を研究するためドイツで博士課程留学中。
4年間国際研究プロジェクトに携わった経験をもとに,最新の研究をわかりやすく紹介しながら,木材生産と環境保全の両立を実現する混交林の可能性,ドイツ留学の体験談を発信していきます。


 

えいじ

東京生まれ。明治大学農学部卒、ドイツ・フライブルク大学とスウェーデン・SLUで森林学の修士号取得。
現在ドイツで現地就職目指して活動中。
Fores-Tryではブログ執筆に加え、SNS投稿も担当。
好きな木はイロハモミジ、嫌いなものはクモ。
趣味: 一人旅、スノボ、心理学、FX、YouTube