「森林の樹木多様性が高いと森林の生産性も高まる」現象が報告されています(以前の関連記事)。
一方で,林業では森林の成長量だけでなく,樹木の材質も見ることが重要です。
たとえ,多様性が高い森林で樹木の成長が向上しても,その樹木の材質が良くないと市場で高く売ることはできません。
森林の多様性と材質は両立可能なのでしょうか?
幹の材質を左右する一つの視点が,「枝ぶり」。
木材の価値は節があるかどうかに大きく左右され,その節を形成する原因が枝の量や質です。
一樹種だけの単純林と複数種を含む混交林を比べた研究によると,混交林では樹木の枝の量が増えることが報告されています1。
多様性の高い森林で枝の量が増えてしまうと,幹の材質にはマイナスですね。
一方で,枝ぶりは森林の多様性に影響を受けず,むしろ樹木同士の密集度に大きな影響を受けるという報告もあります2。
また他方では,多様性の効果は樹木の密集度によって異なり,密集度が高いと多様性は幹の成長を促し,一方で,密集度が低いと多様性は枝の成長を促す,という報告もあります3。
つまり,樹木多様性が高い森林で枝の少ない樹木を生産するには,樹木同士を密集させることがカギかもしれません。
その他,幹の材質には「幹の曲がり具合」,「枝下高(地面から木の一番下の枝までの距離)」,「萌芽枝(太い幹の途中から出てくる小さな枝)の有無」が関係しています。
ヨーロッパ6か国の15樹種,計約12000本の木を調べた研究によると,森林の樹種数は幹の曲がり具合,枝下高,萌芽枝の有無にほとんど影響していませんでした4。
多様性が高い森でも質の高い材を生産できる可能性があるようですね。
林業では「同じ樹種」を高密度で植えて,幹や枝が横ではなく,上方向に成長を促すことで材質をコントロールします。
一方,今回紹介した研究によれば,必ずしも「同じ樹種」でなくてもいいかもしれません。
複数の樹種が共生する森でも質の高い材を生産できる可能性が示されています。
今後の研究でその「可能性」を最大化する条件が明らかになっていくでしょう。
以上,“だい”でした。
参考:
- Guillemot, J. et al. Neighbourhood-mediated shifts in tree biomass allocation drive overyielding in tropical species mixtures. New Phytologist 228, 1256–1268 (2020).
- Van de Peer, T., Verheyen, K., Kint, V., Van Cleemput, E. & Muys, B. Plasticity of tree architecture through interspecific and intraspecific competition in a young experimental plantation. Forest Ecology and Management 385, 1–9 (2017).
- Kunz, M. et al. Neighbour species richness and local structural variability modulate aboveground allocation patterns and crown morphology of individual trees. Ecology Letters 22, 2130–2140 (2019).
- Benneter, A., Forrester, D. I., Bouriaud, O., Dormann, C. F. & Bauhus, J. Tree species diversity does not compromise stem quality in major European forest types. Forest Ecology and Management 422, 323–337 (2018).