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森林研究の最前線② ~樹種の相性と根のはたらき~

投稿日:2020年11月8日 更新日:

物事の全体像を見るには「目に見えない部分」を知ることが欠かせません。

 

例えば,「氷山の一角」という言葉があるように、氷山の水上の部分は全体のほんの一部です。

 

森林研究における「目に見えない部分」,それは「根」です。

 

何て言っても根は地下にあり,普段は見えません。

 

根を調べるにも樹木の根を掘り出す作業は想像を超える重労働です。

 

そのため,木や森林の地上部に比べて,地下の根に関する研究は未解決な部分が多い領域です。

 

さて,前回の記事では,「木の相性」の話を取り上げ,「相性の良い樹種を混ぜて植栽すると森全体の成長が促進される」ことを紹介しました。

 

それでは,根の視点から異なる樹種同士の相性を説明できるのでしょうか?

 

今回は,仮説として提唱されている「資源の分け合い」というメカニズムを紹介します。

 

樹種同士の相性を決めるポイントは,根を介した「空間」,「時間」,「養分」のすみわけです。

 

 

第一に,「空間」のすみわけ。

 

共存する樹種によって根を伸ばす「空間」をすみ分けられれば,樹木間の競争が抑えられると考えられます。

 

樹種によって根の深さは様々なので,根の深さが異なる樹種同士が隣り合えば,資源をめぐる競争を抑えられるかもしれません。

 

ちなみに,世界中の様々な樹種の根の深さを調べた研究によると,樹木は平均で約7mの深さまで根を張ることができるようです1

 

種によってばらつきがあり,なんと最大では地下68mまで達する樹種も確認されています。

 

実際に,一樹種が優占する単純林と複数種が共生する混交林を比較すると,混交林の方が森林全体の細根(養分や水の吸収を担う細い根)の量が大きいことが報告されています。

 

これは,樹種間で根の空間的すみわけが起きて,土壌の浅いところから深いところまでの広い空間が根によって充填されたためだと考えられています2

 

一方,単純林と混交林では根の生産性に差がないとする研究や,むしろ混交林で細根が減少する研究など,研究によって結果のばらつきがある状況です3

 

 

第二に,「時間」のすみわけ。

 

樹種によって根が養水分を多く吸収する季節にずれがあれば,競争が減ると想像できます。

 

私たちの生活で例えると,朝の通勤ラッシュを避け,時間をずらして出社するイメージですね。

 

通勤ラッシュを避けて無駄なストレスを抑えられれば仕事の生産性も上がるでしょう。

 

落葉樹と常緑樹の水分吸収の季節変化を調べた研究によると,常緑樹は落葉樹に比べて冬の水分吸収量が多いことが分かっています4

 

根の水分吸収量は葉から水蒸気が放出される量と関係しているため,冬に葉がない落葉樹は水分をさほど必要としません。

 

一方で,常緑樹は冬でも葉をつけ,根から水分吸収を続けますが,落葉樹とは水分の奪い合いになる心配がないでしょう。

 

 

第三に「養分」のすみわけ。

 

根から吸収する養分の好みが樹種によって異なれば,競争を抑えることができるかもしれません。

 

例えば,樹木の成長に必要な窒素はアンモニウムイオン,硝酸イオン,グリシンというような様々な形で存在しています。

 

共存する樹種間で吸収する窒素の形に違いがあれば競争を避けられそうです。

 

実際に,植物が隣り合う異種と養分のすみわけをしている証拠はあるものの5,それが実際に植物の成長を促進しているかはまだ分かっていません。

 

 

おわりに

 

今回は根の視点から,樹種同士の相性を決めるに要因として「資源の分け合い」ついて取り上げました。

 

今なお検証されている仮説段階ですが,根による「空間」,「時間」,「養分」のすみわけが樹種間の相性を決めるカギと考えられています。

 

次回は,資源の分け合いだけでは説明できない,根を介した樹種間の助け合いについてみていきたいと思います。

 

以上,“だい”でした。

 

参考:

  1. Canadell, J. et al. Max rooting depth of vegetation types at global scale. Oecologia 108, 538–595 (1996).
  2. Brassard, B. W. et al. Tree species diversity increases fine root productivity through increased soil volume filling. Journal of Ecology 101, 210–219 (2013).
  3. Ma, Z. & Chen, H. Y. H. Effects of species diversity on fine root productivity in diverse ecosystems: a global meta-analysis. Global Ecology and Biogeography 25, 1387–1396 (2016).
  4. Trogisch, S., Salmon, Y., He, J. S., Hector, A. & Scherer-Lorenzen, M. Spatio-temporal water uptake patterns of tree saplings are not altered by interspecific interaction in the early stage of a subtropical forest. Forest Ecology and Management 367, 52–61 (2016).
  5. Kahmen, A., Renker, C., Unsicker, S. B. & Buchmann, N. Niche complementarity for nitrogen: An explanation for the biodiversity and ecosystem functioning relationship? Ecology 87, 1244–1255 (2006).

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  1. […] 前回の記事では,根による樹種間の「資源の分け合い」に着目しました。 […]

  2. […] す(関連記事「~樹種の相性と根のはたらき~」)。 […]

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「森づくりはもっと自由でいい!!」
これまでの単一種を植栽する人工林ではなく,複数種を植栽する混交林の可能性を研究するためドイツで博士課程留学中。
4年間国際研究プロジェクトに携わった経験をもとに,最新の研究をわかりやすく紹介しながら,木材生産と環境保全の両立を実現する混交林の可能性,ドイツ留学の体験談を発信していきます。


 

えいじ

東京生まれ。明治大学農学部卒、ドイツ・フライブルク大学とスウェーデン・SLUで森林学の修士号取得。
現在ドイツで現地就職目指して活動中。
Fores-Tryではブログ執筆に加え、SNS投稿も担当。
好きな木はイロハモミジ、嫌いなものはクモ。
趣味: 一人旅、スノボ、心理学、FX、YouTube