木を育てるには樹木間の競争のコントロールが欠かせません。
そして,競争のコントロールには樹木の本数を調整します。
森林管理作業で行われる間伐は,樹木を間引くことで光をめぐる樹木間の競争を抑え,残った樹木の成長を促進させる効果があります。
ところで,
同一の樹種で構成される単純林と複数種が混生する混交林では,樹木の成長に適した樹木の本数密度に違いがあるのでしょうか?
まだまだ造林技術が確立されていない混交林ですが,
混交林での間伐は単純林と同じ強度の間伐で良いのでしょうか?
ある空間で生育できる樹木の本数には限度があります。
人が都会の人混みに息苦しさを感じるのと似ていますね。
個々の樹木が成長するにつれて樹木間で限りある空間を奪い合い,ある限度を超えると,競争に負けた個体が枯れていきます。
見方を変えれば,森林で立ち枯れた木(虫害や病原菌などの攪乱による枯死は除く)が存在しているのはその森林の樹木の本数密度が最大になっているということです。
南ドイツを中心としたヨーロッパの単純林と混交林を比較した研究では,その最大本数密度が混交林で高くなることが示されました1。
立地環境と樹木の平均サイズが同様である単純林と比較して,なんと混交林では平均16.5%も高い最大本数密度を示すことが分かりました。
シンプルに考えれば,単純林で1ヘクタール当たり400本の木を残すよう間伐する際,混交林では466本の木を残して良いことになります。
それでは,なぜ混交林では単純林よりも高い本数密度に耐えられるのでしょう?
混交林の樹木が単純林よりも高い本数密度に耐えられるということは,混交林には樹木間の競争の緩和や,むしろ成長を高め合う相乗効果があるはずです。
樹種間で競争が緩和されるメカニズムが「すみわけ」です2。
例えば,隣り合う樹種間で根を張る深さが違えば,深い根を張る樹種は土壌深層の養分を他の樹種と奪い合いにならずに済みます(関連記事「~樹種の相性と根のはたらき~」)。
また,競争を避けるだけでなく,むしろ樹種間で成長を高め合う促進効果もあります2。
再び根の例を挙げると,樹種によって成分の異なる液体(滲出物)が根から放出されており,中には土壌の鉱物を風化させて土壌の養分環境を改善する働きがあります。
ある樹種の根の滲出物によって改善された養分環境は,共生する他の樹種の成長も促進する可能性があります(関連記事「~根による樹種間の助け合い~」)。
今回は,「混交林の樹木が単純林よりも高い本数密度に耐えられる可能性」を紹介しました。
これを単純にとらえれば,混交林では単純林よりも間伐の強度は低くても良いかもしれません。
そして,その現象の背景には,樹種間のすみわけによる競争緩和と促進効果が考えられます。
混交林の造林技術の発展には,競争という樹木間の負の効果に加え,この正の効果の理解が欠かせません。
次回以降は,この樹木間の競争や正の相互作用の理解・予測にかかせない「ニッチ」,「機能形質」という概念を紹介します。
以上,“だい”でした。
参考:
- Pretzsch, H. & Biber, P. Tree species mixing can increase maximum stand density. Canadian Journal of Forest Research 46, 1179–1193 (2016).
- Forrester, D. I. & Bauhus, J. A Review of Processes Behind Diversity—Productivity Relationships in Forests. Current Forestry Reports 2, 45–61 (2016).